「……だぁかぁらぁねぇ〜……」
「ユンナ……もうやめといたら?」
「うっさいわね! 下っ端天使は黙ってなさい!」
「だっ、誰が下っ端よ!」
「目の前にいるヘボ天使」
「自分だって出所してきたばっかりなくせにぃ」
「……」
「……」
「シャバの空気は旨いぜ……って言えとでも?」
「痛い痛い痛い〜。ほっぺたつねんなくてもいいじゃん!」
「フン。だいたいなんで一緒に飲もうなんて言い出したのよ」
「寂しそうだったから」
「……」
「……」
「独り身はコリンだけでしょ?」
「せっかく慰めてあげようと思ったのにヒドイ」
「そこまで落ちぶれちゃいないわ」
「口添えしてあげた恩を忘れたのかなぁ〜?」
「……ヤな天使になったわね」
「おかげさまで」

 含み笑いするコリンに、ユンナは口のなかだけで呟く。
 ――このアマ、そのうち覚えてろよ。

「というかバイトってバレちゃマズイんじゃない?」
「地上で食べてくためには仕方ないの」
「そっか。あんたも大変ね」
「誰かさんが横取りした手柄のせいでね」

 背中側で盛り上がってる集団の声がやけに耳障りだった。
 どんちゃん騒ぎは男だけのようだ。

「オレの恋人はマルチだけだーっ!!」
「浩之ー。いくらあかりちゃんが家出したからってそんな」
「うっさいやい! てめえらは結婚してねえからんな余裕あんだっ」
「……自慢かコラァ!」
「まあまあ落ち着いて」
「ったく。あー、いまって雅史は寮だっけか?」
「そうだよ。ここからだとけっこう遠いね」
「ふぅん。ま、エースストライカーは辛いよな」
「未だに独り身だけどな」
「へいへいお相手いるやつはいいね」
「そうそう。それに恋人ならほらここにも」
「……」
「……」
「雅史。酔った勢いで襲うなよ」
「え? なにか言った?」
「いやナニモ」
「そう? ところで浩之、終電がなくなっちゃったんだけどさ」
「……泊めないからな」
「ええっ、それくらいいいじゃないか」
「……矢島ー。後は任せた」
「あ、逃げるなーっ! 押しつけるなぁあーっ!」
「……まあ、矢島君でもいいや」
「よくねえーっ!」

 きっと、彼らも寂しいのだろう。
 クリスマスに男同士で飲むなんて、すごく不幸だ。

「つうかさぁ、コリン」
「ん、なに?」
「あー腹立つ、腹立っつう! なんでクリスマスに居酒屋なのよ!」
「だって……芳晴は江美っちとデートしてるし」
「ウィルは服役中だしねえ」
「……はぁ〜」
「ってゆうかさ、何が悲しゅうて天使が人間のために働かなきゃいけないのよ」
「そんな義理はないけどねえ。お仕事だから」
「悪魔とかぶん殴ってるのだけが仕事でいいの!」
「えー。天使を求めてるひともいるんだし」
「今日は世界中が祝福される日なのよ!?」
「そーだけど」
「私たちは祝福されてないのよ!?」
「……ユンナ」
「なに、コリン」
「今日ほど恋人のいる――
 いえ、一緒に過ごせる相手のいる人間が恨めしく思ったことはないっ」
「つーかふざけんなって感じよね」
「なに甘えんてだガキ共ーッ!」
「お前らがうじうじ悩んでる間こっちは仕事してんだーっ!」
「ねえ、あたしたち、初めて分かり合えてるよね?」
「かもね」
「転職考えようかなあ」
「私はともかく、コリンはまだ出世の道あるでしょう?」
「あ、ユンナも減俸されたんだっけ?」
「まあね。これっぽっちで一月過ごすのがこんなに辛いなんて思わなかった」
「あたしが受けた苦痛、思い知った?」
「とっても。二度と尻尾は出さないって誓うわ」
「げげげっ。まだ諦めてないってコト?」
「そ。ああ、大丈夫。もうあなたには迷惑掛けないから」
「というかいい加減目を覚ましてほしいんですけどー」
「恋は盲目って言うでしょ?」
「自分で言わないっ!」
「ふっ」
「なに勝ち誇ってるかなーっ!}
「……」
「……」
「虚しいわね」
「……そだね」
「あーあ。今日はとことん飲みましょ」
「ん。そーしよ」

 そんな天使だけの寂しいクリスマスでありましたとさ。


 追記。
 口でなんだかんだ言っても幸せそうな二名の夜道。

「透子……」
「うん、木田くん。今日は……家?」
「そうだな。酒でも買ってくか?」
「ふ、ふぇ……でも、わたしたち未成年だよぉー」
「いいからいいから」
「……う、うん☆」

 忍び寄る影。

「こぉのガキ共幸せそうにしてんなぁーっ!」
「天使様が粛正――もとい、祝福してやるからそこに直れいっ!」

 天使だって羨ましいんです!

 そんな天使ならいた12月。


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