流石と言うべきか、楓の初撃は速かった。千雨も人のことは言えないものの、およそ中学生とは思えない並外れた身体能力であるのは間違いなかった。
 千雨に合わせたようで、木製のクナイを手にしている。
 腰に佩いている二本の小太刀も木を削って作られているようだった。
 むしろ前回より速度を上げた攻勢を見つめて、千雨はそれらを冷静に打ち払う。まず手首、続いて低い体勢から足首、不意を突いていつの間にか回り込んだ背中から。
 木刀一本で切り抜ける千雨に、攻撃の結果に拘泥せずすぐさま次の流れに移る楓。
 楓はどう控えめに言っても弱くなかった。前回の軽い手合わせにしたところで、決して底を見せるようなこともなかった。多少の窮地を切り抜けるに足る手札はいくつも隠し持っていたはずである。
 あのときは千雨の両親という目があり、また初めての手合わせということもあって、手は抜いていないが全力でもないといった感触の戦い方になったのだろう。千雨はそう考えている。
 真剣を持って斬り合うという行為を千雨はあまり好まない。修練であるなら尚更である。敵であるならまだしも、友人相手に真剣で斬り合う気がないというのはまごう事なき本心であった。
 楓はそうした千雨のことを分かったうえで、きちんと自分用の木製の武器を必要なだけ用意していたのだろう。

 そもそもの話として、そもそも刀の巧者はカイエンであって、自分自身ではないという千雨なりの考えがある。
 千雨にしてみれば、なりきりで、カイエンの巧さ、強さを再現――借りているに過ぎなかった。
 こうした感覚は実際に相対する楓からしてみれば首をかしげるところなのだろうが、強さというものが相対的にしか計れないものであるため、そして、なまじ超絶の技術をその目にしたことがあるからこそ、千雨は自分はさほど強くないと思っている。
 本物のカイエンであれば、どこをどう間違っても楓を斬り殺すような下手は打つまい。
 カイエンの腕は凄まじいものだ。千雨もそれは断言できる。しかし不測の事態というのは予期せぬからこそ危険なのであり、カイエンになりきった千雨が下手を打たないとは限らない。
 天と地ほどの腕の差があれば事故があっても挽回可能だろうが、この不安は、楓が決して弱くなどないことにも起因する。
 あれから確実に腕を上げている以上、楓はゆめゆめ油断できない相手と見た方が良い。カイエンにはまだまだ及ばなくとも、カイエンになりきった千雨になら比肩しうる力量を得たかもしれない。
 実際に戦ってみなければ分からないものがあるのだ。
 わずか数ヶ月。
 数ヶ月があれば、人間は成長できる。完全に素人だった千雨ですら、魔石の助けがあったとはいえ、彼らに鍛えられて数ヶ月後にはそれなりに動けるようになったのだ。
 才能あるものが努力を怠らなければ、いったいどれほど伸びることだろうか。
 カイエンになりきっている今だからこそ、千雨に口元には笑みさえ浮かぶ。
 心根も腕もまっすぐな伸び盛りの若者と立ち会えるのだ。こんなに喜ばしいことはない。
 三度楓から撃ち出されるつぶて、そこに入り交じる分身からの攻撃を避けて、隙を窺っては飛びかかってくる本体に対しては横に薙いで牽制する。当てるつもりも当たるはずもなく、即座に距離を広げた楓は、視線から次の攻撃の箇所と時期を悟らせるほど甘くなかった。


 腕のある者同士の近距離戦闘は、いかにして相手の間合いを見切り、こちらの間合いに相手を留めるか。これに尽きる。
 楓の所作は非常に細やかだった。
 一撃を放ってから離脱するまでの速度が速いのだ。
 流れるような縮地と、一瞬で腕を振り切る思い切りの良さ。防御された時点で次の動きに切り替える判断力まで持ち合わせている。
 両の手に握られたクナイの用途は斬撃だけではない。隙あらば予備動作無く投擲されるのだ。気の込められたクナイは木製であるにも関わらず、恐ろしい切れ味だった。
 軽くでも腕を掠めれば、その部分がスッパリと切られるのは間違いなかった。
 楓は狙い続けている。
 合間に二体、あるいは三体の影分身を織り交ぜて、決して千雨に自由になる時間を与えまいとして。
 ひっきりなしの乱打を受けて、足を止めたまま千雨がそれをいなす。ある意味では単調なその動きも、楓が息をつかせぬ連続攻撃としてこうも巧妙に繰り返してくると、千雨としてはなかなか次の手が打ちづらいものだった。
 避けるにも左右から分身が飛びかかってくるし、前に動こうとすると機先を制するようにして楓が突きを放ってくる。
 かといって後退し続けるには場所が足りない。
 周囲は木々に囲まれていて、忍者には有利な場所だと言えた。
 千雨が上手く距離を取った瞬間には、木々を跳ねて楓の姿が即座に真横に現れている。脇腹狙いの一閃を紙一重で避けたところに、再びつぶて。比較的大きめの樹木を背にした千雨に対し、前方から投擲された小石。
 この小石の隙間を縫うようにして、さらに二本のクナイが飛来する。
 技を使わせないため千雨の動きを封殺する、という楓の強い意志が伝わってくる猛攻であった。
 一撃ごとは軽くとも、こう隙間無く狙われ続けていると、受ける千雨としてもかなり厳しいものがあった。
 そろそろ反撃に移りたいのだが、楓がそうさせてはくれない。
 木刀一本で分身含めて楓四人を相手取り、しかも技を使う余裕も与えられずでは、出来ることにも限度があるのだ。
 視線の先、本体と思しき楓は小太刀を逆手に握りしめ、千雨の動きを睥睨している。
 一方の千雨は、常に分身が張り付いていて動きを阻害されている。
 水も漏らさぬこの布陣である。対カイエン、いや、対千雨対策を充分に練ってきたに違いなかった。
「長瀬……やるな」
「よく言うでござるよ。一発くらいは直撃してほしいのでござるが」
「やだよ。当たったら痛いだろ」
「それもそうでござるな」
 軽口を言い合って、再度にらみ合う。体力が続く限りこれを繰り返してもいいのだが、楓としては面白くないだろう。
 こういった形で千雨が動けないよう封殺するのが最善とは思っても、やはりこの策が破られて次の手を繰り出してくるところが見たいに違いない。そういう戦いを待ち望んでいる表情が、楓の細目の奥に見え隠れしていた。
 千雨は軽く息を吸った。
 正面の楓が身構える。何かあると感じたらしい。
 楓の分身によって次々に上下左右から振り下ろされる、少しずつタイミングのずれた四本のクナイでの攻撃。
 そのすべてが嘘のようにすり抜けた。
 軽い歩調だった。千雨は何事も無かったかのように前に進んだ。これは縮地ではない。むしろゆったりとした歩法だった。
 次の瞬間には、楓の鼻先にすでに木刀の切っ先が突きつけられていた。
「……それでこそ」
 一言小さく呟き、一瞬だけ後ろに下がり、再び真正面から挑みかかってくる楓。
 左手で逆手に持った小太刀と、右手は順手に持ったクナイ。
 真っ直ぐに突っ込んできても打ち倒されるだけだと理解しているのかいないのか、驚くほど一直線に間合いの内側へと飛び込んでくる。
 と、いきなり楓の姿がぶれた。三人に増えたのだ。
 その全員がクナイを投擲してくる。
 正面の楓は眉間を狙って。
 右側にいる楓は喉を。
 左側にいた楓は心臓のあたりを。
 その結果を見る前に、三人分の楓が小太刀を構えたまま、千雨と交差せんと再度の縮地を行った。右にも左にも避けがたく、かといって前進も後退も許さないとする楓の気迫。
 いかなる手落ちか、ちょうど上が空いている。前後左右に動けぬならば、上に逃げれば良いのである。
 しかし千雨は跳ばなかった。
 それが罠だと知っていたからだ。
 とはいえ、あのまま地上にあっては同じことの繰り返しである。虎穴に入らずんば虎児を得ず。多少の危険を知っても、この状況を変えるためには千雨は罠と知っても宙に跳ぶべきだったかもしれない。
 千雨の動きを楓は悪手と見たか、勝利を確信したような笑みをうっすらと浮かべ――刹那、目を見開いて一挙に遠ざかった。
 咄嗟の瞬動である。ほぼ直角に跳ねた楓は、今度は虚空を蹴り跳んで、他方に見えた樹木へと飛び退る。
 まだ足りない。
 視界の隅で、地より千雨が木刀を上段に構えていた。
 当たり前のような構え。だというのに、そこに込められたものは尋常ではない。
 楓が逃れようとするのも当然だった。
 こうした技を出されないようにと間を空けぬ連続攻撃に身を置いていたのだから。
 空気がうっすらと震えていた。気づけば虫たちも声を殺して身を潜めていた。楓は悪寒に震えるようにして、辛うじて大樹の裏側へと回り、今にも刀を振り下ろさんとする千雨の視界から外れることが出来た。
 二秒で三十メートルは稼いだ。ここまでくれば、剣が届くはずのない位置である。
 しかし楓は、さらに遠ざかろうとした。集中した千雨の発する闘気が、桁違いのものだったためだ。
 何をするのかは分からない。だが、もっと逃げなければまずいということだけは分かったのだろう。

「必殺剣――」

 本当は口に出す必要もない、技の名前。
 それでも気合いが入るからと、カイエンもマッシュも使うときは大声で叫んでいた。
 だから、千雨もそれに倣うのだ。

「――虎ッ!」

 力強く振り下ろした木刀。その軌跡。
 まるで衝撃波のごとく。千雨の降った刀から狙い定められた楓の方向へと、虎の姿を形取った闘気が駆け奔る。
 何もかも引き裂き噛み千切らんとする獰猛な闘気の虎である。
 まるで意思を持っているかのように楓の隠れたる前方の樹木に食らいつき、食い足りないとでも言いたげに樹木をずたずたに切り裂き打ち倒し、勢い任せにその場から離れようとしていた楓の背中へと、虎は一息に襲いかかる。
 楓ではなく樹木に食らいついた時点で威力の大半は削り取られていたのかもしれない。
 強かに地面に叩き付けられてなお、即座に立って振り返った楓。土まみれの頬の汚れ、それを腕で拭って楓は口を開く。着ている忍者装束は地面を擦ってあちこちボロボロだ。ところどころから肌色も見えている。血こそ吐いてはいないようだが、受けた衝撃は一瞬よろめいた足取りが証明している。
「大丈夫か?」
「千雨……まだ、拙者はやれるでござるよ」
「いいぜ。来い」
 楓は無言で小太刀を構え、しかし、千雨の背後から妙な気配が急に現れた。千雨は振り返らず、一瞬で前に跳ぶ。
「楓忍法、縛鎖連網ッ!」
 それを行ったのは楓の分身だろう。視界を閉ざすためか、大量の砂煙が粉塵のごとく巻き上がる。。
 本体は今、かなりの距離を詰めようとこちらに身を走らせている。五人、六人、……いや、十人以上の分身たちが、唐突に木陰から現れて一斉に鎖を投げつけてきた。
 蜘蛛の巣状に張り巡らされた鎖の網である。前に進んだにもかかわらず、全方向からの捕縛狙いの鉄鎖陣であった。
 これだけの量の鎖を同時に広げられれば、抜け出すのも一苦労。ましてやすり抜けられる余裕などない。
 千雨は完全に絡め取られた。辛うじて剣を振るだけの隙間は確保したが、上から捕縛用の網に閉じ込められた形である。
 分身は分身に過ぎない。どれほど気の密度を込めたとしても。だから、こんな離れた位置に発生させられるはずがなかった。
 とすれば、随分と前から周辺に潜ませていたことになる。
 おそらくは千雨の技を受けるより早くから。千雨が技を撃ちはなつより前に。
「よくもまあ……隙を窺うにも限度があるだろ」
「ふ。ようやく捉えたでござるよ」
「抜けてしまえばこんなもの……っ」
 木刀を握る手に力を込めて、蜘蛛の巣状、網目となっている鎖の薄い部分に振り下ろす。
「逃すわけがないでござる!」
 動きづらいところを正確に狙って、大量のクナイが投げつけられた。振り払っても次の攻勢が待っているのは目に見えていた。千雨はあの技を受けてなお鈍らぬ楓の動きに感嘆していた。
 瞬転。クナイを投げ無手となった全ての分身が、コンマ数秒ずつずれて、千雨に一撃を当てようと一点に殺到する。
「四つ身分身、朧十字!」
 四体ずつ飛び込んできた分身により、四方から掌打で狙い打たれた。
 鎖に絡め取られた現状の千雨ではそれらを一斉に防ぐ手立てはない。鎖網を投網のごとく投げるために作られた分身は密度は薄いが、かといって無視出来るほど弱い威力とは思えない。
 いささか直線気味に突っ込んできた四人の楓に対し、千雨は木刀を肩に乗せるようにして構えた。
 四体の分身が千雨を同時に狙ったのは、逃げられないためである。
 千雨は逃げず、その場で独楽のごとく回転した。遠心力任せのフードプロセッサーじみた木刀の扱いではあった。
 楓の分身たちは急な変化に対応しきれずこの乱暴な回転切りに一緒くたに巻き込まれた。
 いかなる作用によるものか、千雨が木刀によって鎖の網越しに切りつけた分身たちは為す術もなく宙に弾き飛ばされると、その形を保っていられなくなったらしく、地面に落ちた途端溶け去るように姿を消した。
 だが、第二陣がこの阿鼻叫喚の構図に恐れず飛び込んだ。
「ならば、これでどうでござる!」
 突然、単なる邪魔でしかなかった鎖がうねり、千雨の身体を締め付け始めた。
 鎖の網にあった幾ばくかの余裕が消滅していた。それをやったのは楓以外にいるはずがなかった。残っていた分身二対が鎖の端を片手に握りしめ、千雨を逃がすまいとしてその場に留まっている。
 刀を振るどころか、まともに腕を振るだけの空間さえ失われている。これでは反撃など無理であろう。そう思わせる状況であったが、楓は決して油断した様子はなく、むしろここからだ、と言いたげに千雨の一挙一動に注視している。
「侍は修めた流派によっては手裏剣術も極めるという。千雨は……いや、カイエン殿はどうだったのでござるか?」
「もう少し近づけば分かるぜ」
 にやり。挑発するようなものではなく、ある種の余裕を見せるような笑みだった。
 身動きが出来ないはずの千雨は、しかしまるで動じた様子は見せず、なぜか追い詰めたはずの楓の方が表情を硬くしている。
「やはり、拙者のクナイを拾っていたでござるな」
「武器を封じたと思ったか?」
「そんなに甘くないとは思っていたでござるよ」
「で、来るのか? それとも来ないのか?」
「それはもちろん――」
 鎖を握りしめていた分身二対と、今話していた楓が今度こそ全力で襲いかかってくる。千雨は右手に木刀、左手にクナイを構えた姿勢である。わずかに自由になる腕から先の部分だけで、この三人分の楓とどう戦うかを思案していると――
 千雨の目の前の地面が盛り上がった。
 蜘蛛の巣状の鎖に覆われた部分だった。千雨と同じく、縛鎖の環に囚われていた箇所である。行動を制限されるのは同じ。しかし、いつから身を潜めていたのか上にあった土を吹き飛ばして、今まさに三人と対峙せんとする千雨に挑みかかってきたのは……またもや楓であった。
 最初に見据えていた三人分はなんとか対処できた。
 一人は手放した木刀を足で蹴り上げ打突として、二人目はまっすぐクナイを突き出して、三人目はさらに隠し持っていた石つぶてによる印地打ち。
 威力が足りないかとも思われたが、さほど密度の籠もっていなかった分身であるためか、一人目二人目は細い煙のようになってあっという間に消え去った。
 三人目だけ一撃では足りず、クナイを投げつけざるを得なかった。
 得物は無くなったが、まだやりようはあった。
 本命であろう四人目が懐に飛び込んで来た。無茶な体勢から呼吸を合わせて、千雨は無手ながら強烈な一撃で狙い撃つ。

 ……当たった。
 だが、異様に軽い。あり得べき手応えがない。突き出した千雨の握りこんだ拳は、楓の衣服を打ち据えるに留まった。
「空蝉か……!?」
「正解でござる、よッ!」
 忍者装束を囮にした楓は、限りなく裸身に近い姿のまま、伸びきった千雨の腕をすり抜けて来た。千雨は楓の半裸が間近に迫った瞬間のみ半ば硬直し、それでも反射的に肘を落とそうとするが、これもあえなく空を切った。所詮は悪あがきに過ぎなかった。
 次の動きを待ってくれるわけもなく、即座に心臓の位置にクナイを突きつけられた。
「寸止め、でござるよ」
 その台詞は前回の意趣返しというわけでもないのだろうが、楓はニコリと笑った。
 千雨は手を挙げて降参と口にした。
 一太刀入れて見せろと言ったのだ。
 本当に入れられるとは思っていなかったからこそ、千雨は今、かすかに微笑むのだった。


 一休みして、楓はその場に座り込んだ。千雨も倣った。すでに鎖は外して回収済みである。何十本もあちこちに転がっているクナイは楓が自分で拾っていった。
「って何本用意したんだ……つーかどこにしまってたんだその量」
「作ったのは二十八本でござるな。そこに未使用の分もあるでござる」
 楓に指し示された先には、太い木の根元にそれとなく置かれているクナイが数本。どうやらこの場所周辺にいくつも置きっぱなしにしておいたものらしい。大きさとしては細めの板切れ程度だから、ぱっと見では樹木の色に紛れて分かりづらい。通りであんだけポンポン投げて武器切れにならないわけだ。
 千雨は大いに納得した。場所の選択、武器の入手、どちらも立派な戦略だった。正面からの戦闘に拘泥しすぎている感はあるが、忍者らしい戦い方に徹しているあたりは称賛に値する。
 そんな楓は脱ぎ放った忍者装束を拾い上げて、いそいそと着直している。
「まあ、ハンデ付きで何度も負けるのも悔しいでござるからな」
「……手は抜いてねーぞ」
「分かっているでござる。だが、上限はある……そうでござろう?」
 どういう仕組みかを伝えた覚えはない。楓の前で使ったのもこれが二回目だ。しかし、ある程度の理解はされてしまったらしかった。
 とすれば、楓の看破が優れていたという証左であろう。
 なりきりそのものは特に隠すほどのことでもない。
 能力の再現という部分さえぼかしておけば、それこそ普通のコスプレイヤーと大きく変わらない。かといって巷間に言いふらしたりはしたくない、してほしくない技能ではあるのだが。
 おおよそ理解されてしまっているのは間違いないのだ。千雨はなりきりについて、色々と省いて簡潔に説明した。
「千雨のそれは、精度によって強さが上下する……で、いいでござるか?」
「若干違うな。精度によって本物により近くできる、って言った方が正しい」
「……? 違いがよく分からないのでござるが」
「カイエンのおっさんに近くなるってことは、たとえば刀の腕は上がるが……代わりに機械にめっぽう疎くなる。普段使い慣れてるような携帯電話ですら、やたらと使いづらく感じるからな。番号押すだけなのに頻繁に間違い電話やらかすくらい、って言えば分かりやすいか」
「ふむ。つまり苦手や欠点まで再現してしまうと。ずいぶんと使いどころの難しいものでござるな」
「かもな」
 あと、相手のことをそれなりに理解出来たと千雨自身が思えなければ使えない。これも大きな欠点かもしれない。なりきるためには、それに足るだけの日頃からの情報が必要なのだった。
「今回の千雨は手こそ抜いていなかったが、全力そのものが頭打ちであったと」
「あれでも前回の長瀬相手なら封殺出来る強さだと思ったんだがなぁ」
「頑張って鍛えたのでござるよ」
 苦笑されてしまった。
「ちなみに千雨自身の強さはいかほどでござるか」
「本物のカイエンのおっさんと戦う羽目になったら、顔を合わせる前に全力で逃げる程度だ」
 即答だった。
 これは本心である。
「……ははは」
「私は強くねーからな。自分と相手の力量差くらいちゃんと分かってなきゃ逃げることすら出来ねぇんだよ」
 千雨の口調に何を見いだしたのか、楓のこめかみに汗が一筋たらりと落ちる。
 先ほどの運動量のせいでも、暑さのせいでもなさそうだった。
「マジでござるか」
「マジだ。そもそも本気のカイエンなら、五十メートル離れてても一撃必殺ズンバラリン、だ」
「それはまた」
 とんでもない光景が楓の脳内で展開されていることだろう。だが事実だ。
 必殺剣・断。
 過去を受け止め、迷いを断ち切り、ついに剣の極みに辿り着いたカイエンが見つけたもの。
 神も魔も関係なく、斬ると定めたものいっさいを断ち切るおそるべき一閃。
 ドマ流剣術というより、カイエン・ガラモンドという侍が自ら作り上げたであろう、本物の奥義である。
 実戦では溜めに時間がかかりすぎて滅多に使わない技であるが、これこそ必殺剣の名にふさわしいものだった。
「最終奥義らしくて、とんでもなく長い集中が必要なんだけどな。巨大な岩も、分厚い鉄も、形のない火も、どんな堅守もどんな回避も関係なく、ただの一太刀で全部丸ごと真っ二つだよ。ちなみになりきってもこればかりは再現出来ないからな。見たいとか言うなよ」
「言わないでござるよ……」
 超人大戦にも嬉々として参加しそうな楓ですら、かなり引いている顔色だった。
 あの実直なカイエンが、視界の範囲内にあるものならすべてが断ち切れるとまで豪語したのである。
 実のところ、そんな最終奥義ですらあっさりと真似するゴゴの方がとんでもないのだが、こちらは口に出さなかった。
 げに恐ろしきはものまねしゴゴである。
 そんな人物を師匠として仰ぐ千雨も相当なのだが、そこにはあえて目を向けないのであった。


「ふむ。先ほどの『虎』は気によってその形状にしているのでござるか」
「してるっていうか、虎の形になるというか、そう見えるというか……長瀬だって似たようなことしてるじゃねーか」
「はて、どれのことでござろうか」
「分身は気で作ってるんだろ? 理屈は似たようなもんだ。カイエン曰く『身中より闘気を集め、腕を経て剣気と変えて振り下ろしたる時、獰猛なる爪のごとく鋭く引き裂くものなり。無惨なる牙のごとく激しく噛み千切るものなり。すなわち、これまさに虎のごとし。必殺の意を込めて剣の威を虎と為す。ゆえに名を必殺剣・虎と言うなり』とかなんとか」
「斯様に教えを受けられたとは……千雨は果報者でござるな」
「まあ、な」
 楓の言葉に、素直に頷いておく。
 それからしばらくはなんでもないことを話していた。雑談しているうち、自然とクラスのことになった。
「1−Aは面倒なのばっかり集めたクラスだよな」
「なんと……そうだったのでござるか」
「そこは気付いとけよ忍者!」
 正確には色々と事情があったり問題児だったりを集めてまとめて対処しやすくしたクラス、と言うべきか。
 高畑教諭が担任なのは、何かあったときに物理的に抑えが効くようにしているためなのだろう。あるいは数名が暴走することが分かりきっているから、他の教師から押しつけられたのかもしれない。
 以前からやたらと出張が多いらしいので、他の教師陣より立場が低いのだと聞いた憶えがある。
「高畑先生は……なんつーか、無駄に強いよな」
「確かに。なにゆえ教師なんかやってるのかわからない御仁でござるな」
「悪いひとじゃねーんだろうけど、教師としてはちょっとな。教え方あんまり上手くないのが微妙すぎる」
「……それは言ってはならぬでござるよ。あのクラスをどうにかまとめているだけでも立派でござる」
 まとめきれているのか、という疑問はさておき。
 いや、よくよく考えてみると双子の悪戯に勉強する気のまったくない連中、その一方でわけわからん天才だの科学者だのまで入り交じっているクラスを担当させられるのだ。相当ストレス耐性がなければ辛いに違いない。もしかしてタカミチ・T・高畑教諭は、理不尽な存在とか世の中舐めてる連中にとんでもなく慣れているのだろうか。
 なにしろ、あのクラスを任せられるほどなのだ。
 留学生だらけで、趣味人だらけで、大抵が非常識で、いつでも無茶苦茶なノリにほぼ全員が乗っかるという、新田先生以外の教師が入学からまだ二ヶ月しか立っていないのにすでに匙を投げた1−Aを率いているのだ。
 千雨は自分が教師であの連中の担任になることを想像した。
 瞬時に胃が痛くなった。
 想像だけでうめきそうになったのだ。実際にそんな罰ゲームをさせられたら逃げる。間違いなく逃げる。
 高畑先生がアレの関係者なのはまず間違いない。
 ということは、非常識をなんとなく受け入れているのではなく、分かった上で普通に振る舞っているのだ。
 千雨には出来ない。ツッコミも入れず、かといって怒り出しもせず、時にはこめかみあたりに青筋を立てているのかもしれないが、それでも表面上は笑顔を保ってあのクラスで授業をしているのだ。
 なんてことだ。
 アレ関係者ということで微妙に忌避感というか、距離を取りたくなっていた心情の千雨だったのだが、こう考えを巡らせてゆくと、むしろ大変な思いをしている被害者、その筆頭に数えるべき人物なのかもしれない。
 あの老け顔の高畑ティーチャー、実はものすごく苦労人なんじゃないのか。
 入学してから二ヶ月、かの人物に初めて尊敬の念を抱いた。


「確か……まだ三十路前だろ。高畑先生って、ちょっと老けすぎじゃねーか?」
「ご苦労をされておられるのでござろう」
 うんうん、と楓が分かったような顔で頷いている。問題児の一人がよく言うぜ、と千雨は無言で生暖かい視線を送ってやる。実力を量るための軽いテストをほぼ白紙で出した楓は、素知らぬ顔であらぬ方向に目をやっている。おい。
「そういや古菲のやつ、日頃から高畑先生に挑もうとしないのはなんでだ」
「入学した初日に挑戦したそうでござる。ただ、そのとき条件を付けられたらしく」
 古菲の性格からして、強い相手と分かれば何度も挑戦するのは目に見えている。一回戦ったら二ヶ月経たないと挑戦できない、とか中武研の方に顔を出したときだけとか、そういう取り決めをしたのだろう。
「で、軽くあしらわられたか」
「年齢差と経験は容易く覆せない差でござるからな。単純に十年の鍛錬の差があれば、同じ才能があったとしても勝ち目は無いのが普通でござる」
「中国武術の天才とか言われてる古菲を軽くあしらう英語教師とか、つくづく意味わかんねえー」
「それが世の中というものでござろう」
 いつの間にか木々の合間から虫の声が聞こえてきていた。横に並んで遠くの空を眺めていると、ゆっくりと白い雲がどこかへと流れてゆくのが見えた。
 宙を舞う鳥たちの鳴き声が、何かを見つけたかのように、時折、高らかと響き渡る。群れからはぐれた一羽の鳥がくるりと輪を描いて、それから向こうに覗く無数の影を追いかけてゆく。
 静かな時間だった。
 暑かったが、吹き抜ける風のおかげか涼しくもあった。
 そういえば、楓はどこまでこの麻帆良の仕組みを知っているのだろう。もしかしたら千雨と同じように、なんとなく異常に感づいている風にも見える。忍者という時点であちら側に近い気もするが、直接の関係者ではないのは間違いない。
 クラス内だけに限定すると、龍宮真名、桜咲刹那、ついでにエヴァンジェリン、タカミチ・T・高畑あたりが完全にあちら側だろう。
 交わす言葉の端々に含有された、暗喩するような表現。
 投げかう視線に込められた教師と生徒、生徒同士が向けるようなものではない、微妙な意識の差。
 観察しているつもりはなかったが、視界の片隅で何度もやられると、どうしたって目に入るのだ。細々とした状況証拠と、積み重ねられた日頃の行動から、頻繁にコンタクトを取り合う彼らについては、嫌が応にも感じ取れてしまう。
 もしかしたら、もう数人くらいいるかもしれない。微妙なのが超の周辺。ついでに違和感のある連中を含めると、実はクラスの半分くらい準関係者なんじゃなかろうかと千雨は首をかしげいている。
 近衛木乃香に関してはよく分からない。そこそこの魔力持ちのようだが、それをしっかり制御しているようにも見えない。どう見ても素人である。占い好きとか図書館探検部所属とかも麻帆良では普通の部類に入ってしまう。
 この辺りが刹那が微妙な距離を保つ理由なのだろうか。
 いや、と首を横に振って、考えから外した。
 好奇心は猫を殺すものだ。
 あと、図書館探検部が普通という感覚はすでに世間一般からはズレている。千雨は一瞬あとになってそれに気づいて苦笑した。
 エヴァンジェリンの様子から鑑みるに、アレについて公言しないほうがいいのは間違いない。
 二ヶ月前にエヴァンジェリン邸に招かれたときも、そのあと何度か話したときも、アレに関するエヴァンジェリンから詳しい説明などは無かった。
 これが彼女なりの親切心なのか、それとも嗜虐心のあらわれなのかはいまいち判然としない。
 ただ、どうやら関係者として扱うつもりはないようだ。それだけが救いと言えば救いだろう。千雨がエヴァンジェリンの登校事情に関して知ったことは伝わっていると思われるのだが、関係者と思しき連中からの視線に変化も含意も感じられなかった。
 あるいはエヴァンジェリンが千雨のことについて口をつぐんでいるのかもしれない。
 意図するところは分からなくもないのだが。
 千雨は視線には敏感な方だ。表情を読むのも得意であるとそれなりに自信を持って言える程度である。その千雨が気づかないほど、彼らは隠し事が上手いようには思われなかった。
 話の流れとしてふと気になって、少し言葉を選んで楓にこう尋ねてみた。
「ところで長瀬。あっちに近づかないのは何か理由があるのか」
 学園を覆い尽くす、形状としてはドーム状になっている結界の端っこ。ヴェールのように薄く、シャボン玉めいて透明な、あの不可視の障壁の方角を、千雨はまっすぐ指し示した。
 山の中腹より向こう側。麻帆良の敷地の外側にあたる部分。
「……あそこでござるか」
 細い眼をさらに線のごとくした。見えないものを見ようとしているかのように。
「嫌な感じがしているのでござるよ。あのあたり一帯に」
 そんな楓の言葉は、妙に蒸し暑い風に乗って、千雨の耳に届くのだった。


 千雨は首をかしげた。
 いわゆる学園結界そのものには悪意的な仕掛けは無い、と千雨の目には映る。あの透明な膜の部分に触れなければ、侵入者感知に引っかかるわけではないし、そもそも触れたところで何かを吸い取られるでもなく、何か害を与えられるようなものでもない。
 つまり、普通の人間にとっては結界の有無はほとんど意味を為さない。益もないが、害もない。高級マンションにおける敷地の境界線上に監視カメラが置いてあるようなもので、一般住人にとっては、これによって不利益を被ることはありえない。せいぜい自分のプライバシーが気に掛かったり、頻繁に出入りしているとマンションの管理人から変な目で見られるくらいのものなのだ。
 千雨にとっては監視カメラ扱いの結界だが、警備員に当たる人間が常に監視し続けているとは考えにくい。
 つまりは動体認知のセンサーでも取り付けてあるんじゃなかろうか、と想定している。特に、正規ルートを通らない場合にはチェックが厳しくなっていても不思議ではない。
 かといって全部を調査していたらいくら手があっても足りなくなるだろう。意識しなければ見えない透明な障壁である以上、普通の鳥や虫、小動物だって頻繁に出入りするのだ。それらをすべて認識するとも考えにくいし、いちいち見て除外するのは煩雑に過ぎる。
 ならば自動的に判別する機能があると考えるのはそれほどおかしい発想ではない。
 一定の大きさ以上のもの。あるいは一定以上の魔力を内包するもの。このあたりが侵入者として認識する対象の条件だろうか。
 空港検査の危険物を持ち込ませない仕組みを参考にすれば、そのあたりが現実的に可能なシステムの限度かもしれない。
 ともあれ、普通の人間であれば出入りそのものに障害はないことに関しては、まず間違いないと千雨は考えている。

 他方、普通の人間でないならば……結界によって抑えられるものもある。
 強大な力を持った人間以外の何物か。
 結界内においては、こうした強力な人外にのみ、その魔力を大幅に封じ込める機能があるらしいのだ。
 これについて理解が及んだのは、恥ずかしながらエヴァンジェリンが口走ったいくらかの言葉が遠因である。それまで千雨には何ら干渉していなかった結界であるため、こんな効用が存在しているとは思わなかったのだ。意図を理解してエヴァンジェリンの身体を見ると、内部に対しては鷹揚に過ぎるあの結界が、なぜかピンポイントでエヴァンジェリンを捕捉しているのが視えた。
 結界は頑丈な蓋のように、エヴァンジェリンの身体を巡る魔力を力尽くで抑え込んでいたのだ。
 気づかなかったときには気にもならなかったことだが、こうして見えてしまうと気に掛かる。エヴァンジェリンも気づいてからは色々と自分で試しているようなのだが、結果は芳しくないようである。
 結界の捕捉能力がどれほどのものかは分からないが、上手く対象が人間であると誤認させることさえ出来れば、結界の抑止から簡単に除外されそうな気はする。割と大きめな魔力持ちである木乃香が何ら影響を受けていないことからも、魔力の多寡は抑止される条件と無関係であろうとすぐ予想が付くからだ。
 というわけで、学園結界の端、その障壁そのものに楓が危険を感じるというのもおかしな話だと千雨は考えた。
 これに関連した話として、非常識を常識の範疇にあるように感じる意識誘導は、広範囲に対する浅い催眠であると言える。
 千雨が周囲との乖離に苦しんだあの意識誘導は、麻帆良の学園結界とほぼ範囲が重なっているため誤解していたのだが、よくよく見れば結界の効用ではないのだとある日ふいに気づいたのだ。
 もちろん学園結界の運用のため、広範に届く世界樹の魔力を利用しているのは間違いない。
 千雨が考察するに、麻帆良の土地を覆い尽くす意識誘導は、あの神木・蟠桃そのものが行使している生存のための自己防衛機能なのだ。
 世界樹そのものが非常識の塊である。あれを受け入れるためには、他の細かな非常識など些事に思えるはずだ。そして学園結界が消失したとしても、意識誘導そのものは世界樹がある限り残り続けるだろう。
 正直なところ、千雨以外の住人、アレ関係者を含めた麻帆良在住の全員がその意識誘導に引っかかっている節がある。
 案外、この推測は当たっているんじゃなかろうかと、千雨はため息混じりに肩をすくめる。
 とにかく、結界そのものに異常や瑕疵はなく、楓に対しては害になることもない。
 ならば、楓は何に対して警戒しているのか。
 学園結界の端っこの、おそらくは外側に、いったい何が存在しているのか。


 違和感があった。順番に考えを整理していくと、嫌な予感がぬぐえなかった。
(待てよ。結界の外側だと……つまり、そこで何をしても結界に触れなければ露見しない……か?)
 メインの機能として、これは侵入者感知の結界である。
 つまり侵入者の存在が想定されている。
 たとえこの麻帆良の中が完全にまとまっていても、外側もそうだとは限らないのだ。というか、むしろ軋轢が無いほうが不思議な話だった。あらゆる組織がそうであるように、アレの関係者たちも決して一枚岩などではないのだろう。
 麻帆良に侵入しようとする者が戦力を揃えるとしたら、どこで準備を蓄えるのが最も効率的か。自分の陣地から連れて行くのは大変だ。見つかりさえしなければ、麻帆良に近ければ近いほど良いに決まっている。
 山中はどうだろう。特に、誰も足を踏み入れないような、人目に触れないような、そんな山奥などが魅力的である。
 そう。
 たとえば千雨たちのいる場所からもう少し向こう側。
 日中だというのにやけに薄暗く、木々に囲まれた鬱蒼とした場所。結界のわずかに外側。楓が指し示した方角、千雨が目を凝らして周辺を眺めてみると、確かに何か不穏な雰囲気を感じなくもない。言われなければ気づかなかった程度のかすかな感覚だ。しかし、ひとたびそこに何かがあると思えば、もう見なかったことには出来ない。
 冷たい感触だった。
 気のせいとは、もう思えなかった。
 嫌な感じとは楓もよく言ったものだ。なんだかよく分からないが、そこに近寄りたくない気配がぼんやりと存在している。
「ひとつ聞くが……長瀬。先週はどうだった? その、嫌な感じってのは前もあったのか」
「いや、先週は別の用事があって、ここに泊まりには来ていないでござる」
「じゃあ先々週は」
「無かったでござるな。……正確には、あのあたりに妙な気配は感じたものの……こういった危険な感触ではなかったでござる」
 楓の返答で、千雨はそっと天を仰いだ。
 空は明るくて青かった。夏の太陽から降り注ぐ清澄な光が、緑に溢れる山々の色を眩く輝かせていた。
 雲がまたひとつ、ゆるやかな動きで流れてゆく。空を舞う鳥たちは優雅に宙を滑って、いずこかへと消え去ってゆく。
 見渡す限りの夏の景色。
 そこに吹き付けてくる涼やかな風に、異臭混じりの生ぬるい空気が紛れ込んでいる気分だった。
 千雨は、うんざりした気分を隠しもせず、その方向を睨んだ。
 楓も質問された内容によって警戒を増したのか、同じ方角を怪訝そうな表情で見つめていた。


 
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