「おーい、ロロ! 聞いた?」
「んー、国費からのテネの使い込みがバレたっちゅう話しか?」
「……空のお星様になりたいみたいね」
「じょっ、冗談やんかー。そない怒るなって。なっ」
「まあ、いいけど」
腰の高さまである長い髪をまとめたその少女の名はテネレッツァ。
そして、周りを蚊のごとくぶんぶんと飛び回ってるのはロロ。
テネレッツァはまじかる魔法うぃっち(自称)、
現在なんでも屋(恋愛相談から世界を救うことまでなんでもござれ)を開業中。
ロロは交易都市エスペランサ近郊にある魔の森の主で、
齢数百〜数千年のツッコミ妖精でもある。
「で、本題なんだけどさ」
「ほうテネらしくもない真面目な顔つきでどした」
「実はね、伝説の樹の下で告白すると永遠の愛が手にはいるって噂が」
「伝説の樹やて!?」
「知ってるの?」
「まぁ、知ってるっちゅーか。ウチの森の奥に一本あってな」
「へーえ。初めて知った」
「その樹の前で」
「前で?」
「恋人にしたい奴の髪の毛を縫い込んだわら人形を樹の幹に」
「伝説の樹に?」
「そや」
「……」
「その人形を、五寸釘で強く打ち付けながら……」
そこまで言った瞬間、
テネレッツァがロロの口を拳で思いっきり手加減無しで抑えた。
ロロは星になった。
「なんでや〜!」
五分後、落ちてきた。
「はぁはぁ……死ぬかと思った」
「大丈夫。アンタは死なない」
「どうしてそう言い切れるんや」
「ギャグだから」
「……」
「……」
「まあ、ギャグキャラの宿命やな……」
「そーゆーコト。理解が早くて助かるわ」
「ということで早速続きを」
「すとーっぷ! その先なんかスッゴク嫌な予感するんだけど……」
「まあ聞いてな。まずあの伝説の樹にはな、
ちゃんとした女神の恋愛話が残ってるから効果のほどは安心しい」
「そうなのっ?」
「この目で何人か見てきたから間違いない」
「まじ?」
「超マジや。んで、髪の毛を塗り込んだわら人形を打ち付けながら、
伝説の樹の下に呼びつけた相手のロープをゆるめてやって」
「……え。彼はもう縛られてるってこと?」
「ああ。もちろん先に縛っておかんとダメやでー」
「ふむふむ。なんか間違ってる気はするけど」
「それと、捕まえるとき意識飛ばしてたらその時点で起こしてやらんと意味がない」
「じゃあ、使うのはクロロフォルムでいいかな」
「大丈夫やろ。それと猿ぐつわは嵌めたままがよりベターや」
「その先は?」
いつの間にか乗り気で話を訊いているテネレッツァ。
自慢げに話すロロ。
そして近くの茂みで震えながら聞いている騎士見習いセリウス。
ちなみに、テネレッツァの思い人だったりする。
ターゲットは辛いね。
「起きた相手に微笑みながら、伝説の樹に向かってこう言うんや。
『大邪神ミトラス様ミトラス様。
我が恋を成就させるために世界を滅ぼしたまえ!』
これでもう、相手は恋心に鳥肌立てながら、
テネの告白にぼっろぼろ涙流して頷いてくれるに決まっとる」
「あのさロロ。復活させちゃったミトラスって、昨日倒さなかったっけ」
「んー。まあ、封印しただけだからまた復活するんやないか?」
「そっか! よかったぁ」
納得していた。
尚、ミトラス神は現在封印の遺跡奥深くで療養中。
趣味は園芸で、最近は松の枝の綺麗さでコンクール出展していた。
ただ、落選して荒れに荒れてアルコール中毒とのことである。
「あっ。でもそれで世界が滅んじゃったら」
「気にすんなやテネ! そりゃもう恋のためなら世界のひとつやふたつっ!」
「それもそうだよねっ!」
哀れセリウス君。
次の日、セリウス君は先に告白することとなった。
もちろん、茂みに彼がいたことは――
テネレッツァもロロも気づいていたのは言うまでもない。
注)魔の森の伝説の樹(別名、恋に破れた女神の棘)
この樹には女神がある男性に恋をしたが告白を断られ、次の日に、
薬品を使って既成事実を作り鎖に繋ぎ包丁を見せ、微笑みながら、
もう一度告白をしたところ男が快諾した、という神話が残っている。
もうひとつの伝説として、この樹の下で男が告白する場合。
能力値を上げに上げて、女性に媚びて好みに合わせ続け、
どんな女性も堕ちるようなジゴロ状態にならなければならない。
また、伝説の樹は爆弾を生み出すので注意が必要である。
附記)
尚、この樹の有効性は、現在疑問視されている。
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