姉の名はシャーロム=スケルツィ=エヴォルツィオーネ。(以降SE)
妹の名はシャーロム=クサンティッペ=ペルフェツィオーネ。(以降XP)
発音すると舌噛みそうですね。
ちなみに演歌のようにこぶしで歌う感じで発音するのが正統らしいです。
彼女たちはそれはそれは心穏やかに過ごしておりました。
ある日、変態大統領に唆され、ちょっと地上に出ることに。
大統領は真っ白い歯をキラリン☆と輝かせて言いました。
お誘いは世界征服でした。
「ふぉっふぉっふぉ。(笑い声)
地上を支配すれば可愛い男の子は選り取りみどりじゃが、いかがかな」
シャーロムSEは満面の笑みを浮かべました。
恍惚としているのは、きっとその瞬間を想像しているためでしょう。
「ホホホ。マロの好みをよく分かっておじゃる。そなたに協力せよと?」
「むろん。して報酬はこれくらいでどうじゃね?」
「ちょっとそそっかしい姉上のこと、よろしゅう頼みますさかい」
シャーロムXPは京都風な喋りで頭を下げた。
彼女は礼儀正しいのです。
「ではマロは城へ向かうのじゃ」
「ではマロは家でテレビ見ながらくつろぐかえ」
「うむ。後は任せたぞ」
「任せんしゃい」
「任しとき」
「……うぅむ」
ちょっと大統領は不安そうでした。
魔物であるふたりは名門出のお家柄ですが、娯楽に飢えているのです。
健やかな日には、ちょっと森を荒らしてみたり。
風の強い日には、少し魔物を放出してみたり。
また雨の日には、魔法で街にシロアリを巣くわせてみたり。
そして晴れの日に、出した魔物に給料払わずストライキされてみたり。
ふたりは色々なことをして面白おかしく過ごしておりました。
困ったのはエスペランサのひとびとです。
魔物の大量発生には理由があるとして、テネレッツァに頼みました。
『金をやるからあいつ等を快楽の淵に陥れさせてしまえ!』
『東京湾に沈めてきて!』
『このクスリをあいつらに売って儲けましょう』
『ああ、放置してくれれば武器が売れるぜ。魔物様々だな』
『実は恋人の浮気相手が魔物だってことなんです。殺シを依頼させて!』
『ドラゴンとチェスをしたいんだ。誰かいい竜いない?』
『異世界から流れ着いたこの本要らないか? 異能者っていう題名なんだ』
『魔物たんはぁはぁ』
『えー。いわゆるひとつの遺跡マニアがそこにいるわけでありー』
『遠距離電波倶楽部! 絶賛協賛募集中!』
しばらくしたある日、姉がテネレッツァにやられたという報せが届きました。
シャーロムXPは思います。
――姉上、とうとうショタの夢は破れもうしたか。
そう、テネレッツァは女。そして少女とも言える年齢。
女の子にやられるなんて、あり得ないと思っていたのです。
オトコノコの胸のなかに倒れ込みたかった、その夢はもう散りて――
そしていつしか、テネレッツァと戦う機会が生まれます。
大統領の企みが露見したのです。
そう、ロリ画像所持から世界征服の野望がバレたらしいのです。
致命的なのは自宅(大統領邸)で発見されたこと。これじゃ言い逃れ無理です。
大統領は最後まで認めませんでしたが。
姉の敵討ちとばかりに、シャーロムXPは闘いを挑みました。
そして負けました。
テネレッツァは強かった。
シャーロムXPは思います。
――姉上、どうしてマロは破れたのでありましょうや。
シャーロムSEは自宅のある地獄から舞い戻って来て答えます。
黒幕の大統領のほうは、エネルギー充填しようとしましたが……
幼女写真のなかに紛れ込んでいた裸のアニキ写真を見て悶絶してしまいました。
ザ・超兄貴。
彼も純粋だったのでしょう。
ああ、なんという運命のいたずら。
愛は、こんなにも儚いものなのです。
簡単に壊れてしまうものなのです。
それでも、シャーロムSEはテネレッツァに微笑みかけます。
ああ、それはなんという清らかな笑み!
愛です。
そこにあるのは、間違いなく愛なのです!
「それはのう、マロたちはあの娘子に恋をしてしまいもうしたゆえ!」
「なんと! なんとなんとなんとぉッ!」
「マロはもうこの恋心を抑えるつもりはないのじゃ!」
「姉上様は……姉上様は胸のぺったんこなのが好みとっ!?」
「おうおう。そうよの。マロは幸せじゃて……」
「なればマロも。マロもその道に続かせてもらいやす!」
取り残されるテネレッツァとロロ。
「あのー。あたしってもしかして、いまヤバイ、かな」
「テネ……シャーロム姉妹の目が怖いで」
「ちょっ、ちょっとぺったんこが好みだったらロロでもいいよねっ! ねっ!」
「まてコラーっ! なに自分だけ逃げようとしてんねーんっ!」
シャーロムSEは宣言しました。
シャーロムXPも後に続けました。
「マロはテネレッツァのストーカーとなりもうす!」
「マロもテネレッツァのストーカーになりまする!」
「げげー。ありゃ本気や……どないする?」
「逃げたほうが良い、かな」
「逃げても無駄! 無駄無駄無駄ぁあ!」
「マロたちは家の窓から毎日覗くでな!」
「ほーっほっほっほっほ!」
「ほーっほっほっほっほ!」
「それでは」
「テネレッツァ」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
しゅー。音を立てて地面に吸い込まれていくシャーロム姉妹。
つまり捕まえようにも毎日のように家に出現できるということで。
「……あのさ、ロロ」
「言いたいことは分かる。こら夜逃げせなアカンかな……」
「だよねえ」
振り返るテネレッツァたち。
そして逃げようとしたテネレッツァの眼前に顔が出現するのです。
「そうそう。マロはこれよりテネレッツァお姉さまと」
「マロはこれからテネレッツァ姫姉さまと呼びましょうかや」
いつまでも、その笑いは響いていました。
いつまでも……
「……え。もしかしてあたしって悲劇のヒロインなのーっ!?」
まあ、テネレッツァは上手くやっていきそうですが。
数百年の後世にあたる今日の日には、
エスペランサを世界貿易の中心地として発展させたテネレッツァ伝承の裏で、
シャーロム姉妹の名もまた、伝説となっているのです。
そう、愛のキューピッドとして!
こんな高笑いが聞こえると幸せになれるという、そんな愛の伝説――
以上、シャーロム愛の劇場(ウエディングバージョン)でした。
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