――ある日のこと。
「なあ、夢と現実って、何が違うんだ?」
「そうだね……
きっと、現実は今のことで、夢は未来のことなんじゃないかな」
目の前の無害そうな男は、珈琲を淹れながら問いに答えた。
こぽこぽという音と、香ばしい匂いをさせている。
「……ふぅん。どうしてそうなるんだ?」
「いつか叶うと信じていられるように、だと思うよ」
「そうかな」
「そうだよ」
「やけに言い切るな……でも一般論じゃないだろ。それ」
「うん。僕よりも巧く説明してくれそうなひとに訊く?」
他の誰の言葉でもなく、コイツの言葉だったから。
だから、素直に納得してた。
「いい。面倒な言葉よりも楽だから、今ので納得する」
「夢ってなんなんだろうね。ほんと」
「あ、そうだ。じゃあ、夢と現実の境界ってどこにあるんだ?」
自分と世界の境界にも似て。
ただ外側にいる者だけが、知ることの出来る境界線。
「……それはさすがにわからないね。
でも、結局は夢も現実も同じものだから、境界なんて無いんじゃないかな」
「へ?」
「夢は、現実がないと存在できないんだよ。絶対に」
「……そっか。そうだよな」
夢見る者がいなければ、夢は何処にも無い。
たったそれだけの、だからこそ大切なこと。
「納得した?」
「ああ。ものすごく納得した」
そんな昔の夢を、視ていた――
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